この資料は、いま作っている「dev-harness(デブハーネス)」が何なのか・なぜ作るのか・どこまでできたのかを、予備知識なしで分かるように説明するものです。
1.何を作っているか(30秒でわかる版)
AI に開発作業を頼むと、AI は最後に「できました」と報告してきます。でも、この報告はしばしば当てになりません。頼んだことが抜けていても、本人は気づいていないからです。
だからこれまでは、人間が AI の成果物を毎回レビューして、直しを指示する必要がありました。実は、ここが一番時間を食うところです。
いま作っているのは、この「本当にできたのか?」の確認を人間の代わりにやる仕組みです。
- AI の成果物を、作った本人とは別の AI が採点する
- 合格か不合格かは、最後に計算機が数字で判定する(人の気分も AI の自己申告も入らない)
- 判定の記録は全部ファイルに残り、あとから誰でも確かめられる
これを開発会社に商品として提供するのがゴールです。
図A これまでのやり方と、この仕組みのちがい
これまでのやり方
AI「できました」
↓
人間がレビューここで渋滞する
↓
直しを指示
↑ 直しのたびに人間へ戻る
この仕組み
AI の成果物
↓
別の AI が採点
↓
計算機が数字で判定
↓
記録がファイルに残る
人間がレビューで渋滞していた確認作業を、別の AI の採点と計算機の数値判定に置きかえる。
2.なぜこれが商売になるのか
開発会社のいまの悩みはこうです。
- AI のおかげでコードを書くのは速くなった
- そのぶん、人間の確認作業(レビュー・検品)が渋滞するようになった
一方で、AI 本体はどんどん賢くなるので、「AI をうまく動かすコツ」だけを売っても、すぐに価値がなくなります。
最後まで残る価値は、「その会社では何を合格とするか」という基準と、それを毎回きっちり検査する仕組みです。これは会社ごと・案件ごとに違うもので、よそから買ってくることができません。
だからこの商品は、道具そのものより「お客さんが自分の合格基準を育てられる仕組み」を中心に据えます。
3.仕組みの核 — 3つの原則
この仕組みの設計は、まさおさん(数百本のスキルを作り込んできた実践者)の考え方を土台にしています。核になる原則は3つです。
原則1: 作った本人に採点させない
自分で書いた答案を自分で採点すると、必ず甘くなります。AI も同じです。だから「作る AI」と「採点する AI」を完全に別にします。採点係は、作業の経緯や言い訳をいっさい知らないまっさらな状態で、成果物だけを見て採点します。テストの実行も自分でやり直し、報告を鵜呑みにしません。
原則2: 合否は計算機が数字で決める
採点係が付けた点数が合格ライン(例: 90点)以上かどうかを、小さなプログラムが数値比較して決めます。「たぶん大丈夫」「もう十分でしょう」という気分が入り込む余地をなくすためです。AI は提案と作業をする係、合否・記録・ルールの番人は機械、という分担です。
原則3: 合格基準はお客さん自身のものにする
道具(エンジン部分)はこちらが保守します。でも「何を合格とするか」の基準・守るべきルール・過去の失敗メモは、お客さん専用のフォルダに置き、お客さんが自分の言葉で育てます。
これには理由があります。人は他人が作ったものに愛着を持てないからです。自分で育てた基準は自分の資産になり、使い続ける動機になります。(お客さんが基準をいじって壊しても大丈夫なように、決まりから外れた書き方は機械が自動で見つけます)
おまけ: AI の「ズル」を防ぐ仕掛け
AI は点数を上げる近道として、基準のほうを緩めることをやりがちです。テスト勉強をせずに、問題のほうを簡単に書き換えるようなものです。だからこの仕組みでは、
- 採点係は基準ファイルを書き換えられない
- 採点項目を勝手に増やしたり減らしたりした採点表は、点数に関係なく無効
- 点数が合格ライン未満なのに「合格」と自己申告したら、それも無効
という検査を機械側に入れてあります。
図B 核になる3つの原則
3基準はお客さんのもの
お客さん専用フォルダ基準・ルール・失敗メモ
道具の部分こちらが保守
①作る側と採点側を分け、②点数を合格ラインと数値で比べ、③基準はお客さん専用フォルダに置いて道具と分ける。
4.まさおさんの考え方から、ほかに借りているもの
3原則のほかにも、次の作法を取り入れています(それぞれ1行の「なぜ」つき)。
- 部品の名前だけで役割がわかる命名ルール — 名前が約束になっていれば、中を読まなくても安全に使えるから
- 説明書は短く、いちばん大事なことは冒頭に — 長い説明書は肝心なところが埋もれて読まれないから
- AI がもともと知っていることは書かない — 書くほど、この会社固有の大事な指示が薄まるから
- 同じ失敗を繰り返したら、注意書きでなく機械の検査に昇格させる — 注意力で防ぐより、機械で100%防ぐほうが安いから
- 状態はチャットの流れでなくファイルに残す — 途中で止まっても、誰が引き継いでも、続きから再開できるから
5.実際に動いた例(初回の検証・2026年7月10日)
題材: 電卓プログラムに「中央値(真ん中の値)を計算する機能」を足す、という小さな仕事。
図C 初回の検証でたどった5ステップ
依頼書を書いてから合格・記録までの流れ。3で満点、4で計算機が合格ラインと比べて合格になった。
- 依頼書を1枚書く — 「何を作るか」「触っていい場所はどこか」「合格条件6個」(テストが全部通る、元のデータを壊さない、など)を書く
- 作る AI が実装する — 触っていい場所の中だけでコードとテストを書いた
- 採点する AI が採点する — 別モデル(Opus)が、依頼書と採点表を照らし、テストを自分で実行し直して、4項目で採点 → 100点
- 計算機が判定する — 「100点 ≧ 合格ライン90点」を数値比較して 合格
- 記録が残る — 採点表・点数・判定・根拠が全部ファイルに残った
この間、人間がやったのは依頼書を書くことだけ。成果物のレビューはしていません。
仕組み自体の健全性チェック(自己テスト7項目)も全部通っています。「壊れた採点表を渡したら無効にできるか」「点数不足の自己申告『合格』を弾けるか」まで機械で確認済みです。
6.進め方 — 一気に作らない
前に、一気に作りすぎて全体を把握できなくなったことがありました。今回は1段ずつ、動くことを確認してから次に進みます。
段を上がる条件は毎回同じ: 「自己テストが全部通る」+「実際の仕事を1本流して合格する」。
図D 段0から段4までの階段
共通の昇段条件: 「自己テストが全部通る」+「実際の仕事を1本流して合格する」
段0はすでに完成。上の段ほど価値が大きい。どの段も同じ昇段条件をクリアしてから次へ進む。
- 段0(完成✅): 1回きりの流れ。依頼 → 実装 → 採点 → 機械判定 ← いまここ
- 段1: 不合格だったら、指摘をもとに自動でやり直す(合格するまで回る)
- 段2: 受け入れ試験を本物の環境で行う(実際の画面・実際の端末で確かめる)
- 段3: お客さんが自分で基準や部品を安全に増やせる補助を作る(商品価値の本丸)
- 段4: 配れる形に整え、効果を数字で示す(変更1件あたりの費用、一発合格率)
7.次にやること(あなたの判断待ち)
- 実際の案件の仕事を1本、この仕組みに流してみる(おすすめ。実戦のズレを早く見つけられる)
- 段1(自動やり直し)の開発に進む
- 保存(コミット)の仕方を決める — 「初回検証の分」を分けて保存しておくと、巻き戻せば営業デモとして再利用できます
付録: 物の場所
- 実物一式:
~/dev/dev-harness(全25ファイル。半日で全部読める量に抑えてあります)
- AI 向けの引き継ぎメモ:
docs/HANDOVER.md(人間は読まなくて大丈夫)
- この資料の原稿:
docs/handover.source.md